• 2011年5月
  • 明治国際医療大学医学教育研究センター
  • 中山登稔

 序文

 近年、世界的な人口高齢化に伴い医療費が急増している。諸外国に比べて日本の高齢化の速度は著しく速いゆえ、患者にやさしい低コスト医療の提供が必要不可欠となりつつある。人は加齢とともに体力や免疫機能が低下する一方で、慢性疼痛疾患への罹患率が高くなると思われる。このような慢性疼痛疾患の治療では、物理療法の一つである経皮的神経電気刺激(TENS)療法によって症状が改善される人が多く見られる。TENS療法は非侵襲的で、副作用も少なく、一定の治療効果が挙げられることから徐々に注目されてきている。 科学技術の進歩によりTENS機器も飛躍的に発展し、より安全、かつより効果的なものが求められつつある。一方、TENS治療効果の科学的究明が進んてきているが、いまだ解明されていないものも多く存在している。今後の究明を待ちたいと思う。このような事情に鑑みて、筆者らが自分自身の知識と経験や、多くの国際的な研究発表の結果を参考にしながらこの本を作成した。TENS治療に携わる多くの臨床家や学生などの有志に情報を提供したい、実際のTENS治療においては、同じ疾患であっても、体質、症状の程度などに応じて、電極配置部位、刺激強度、刺激時間などを調節する必要がある。そのためには、TENSの基礎知識や痛みのメカニズム、効果のメカニズムなどをある程度考慮する必要があり、その方が治療効果は上がる。そのような理由から、本書ではTENSに関する基本的な知識も分かるよう努めた。また、代表的な慢性疼痛疾患について、ベッドサイドで本書を利用して基本的な治療が行えるスタイルを目指した。そこで、第I部基礎編、第II部臨床編の2部構成としている。第I部第1章は電気刺激療法総論で、電気刺激の基本知識とTENS療法の作用機序を理解するための神経生理学的な基本知識について述べる。第I部第2章は痛みとTENS療法の効果で、痛みの受容器や伝導路などと、TENS療法の、末梢や中枢への効果の機序について述べる.

 第II部第3章は各疼痛疾患症候群における電気治療で,TENS療法に適している40疾患について述べる.多くの方に,臨床現場で活用いただければ幸いである.